オリオン座を撮る
- 揖斐谷 -
秋も深まると、東の空に冬の星座が顔を見せ始める。 冬を代表する星座といえばオリオン座であることに異論を挟む人は少ないだろう。 街明かりの中からも、明るすぎる街路を避けて夜空を見上げさえすればオリオンと出会うことができる。 夏の星座と冬の星座を理科で学ぶ小学校4年生も、夏の星座よりも冬の星座、というか冬のオリオン座の方が分かりやすいようだ。 それぐらいオリオン座は圧倒的な存在感を見せて、寒空に輝いている。 11月上旬には午前2時過ぎにオリオン座は南中するが、11月まで待たずとも晩夏の明け方でもオリオン座は姿を見せる。 北アルプスの主稜線で夜を徹して星空を撮っていると、夜明けの白み始めた東の空にオリオンが姿を現す。 8月のオリオンに出会うことを楽しみに山を登ってきたと言っても、あながち言い過ぎではない。 冥王星の名付け親として知られる天文民俗学者野尻抱影氏(1885~1977)は、「冬の星空」(『新星座巡礼』所収、1957年)で次のように述べる。 星を知らない人達が、天文学の入門は夏の夕涼みか、少くも銀河の冴える秋の空であろうと思うのは無理もないが、実は冬のことである。そしてオリオン座付近から教えられた星の美と神秘とは、生涯を通じ冬毎に味わずにはいられぬものとなり、冬が徒に熱い飲料と燃えさかる炉の火とを恋い、或は一途に春の訪れを待ち侘びて過すべき季節でないことを、しみじみ覚るようになるに相違ない。 野尻抱影氏は生涯を通してオリオン座を愛した。 次に紹介するのは同じく『新星座巡礼』から「星は周る」の一部。 彼岸も過ぎて読書や原稿に思わず夜を更かした時、又は夜半に目が覚めて庭に雨のような虫の声を聴く時など、意識はすぐ星の傾いた空に向いている。「もう来ている時分だ」と思う。---オリオンがである。 (中略) しかし、せっかちに東の空は見ない。先ず南の星を見てからそろそろと頭を廻して行く。そして、「そら、いた!」と叫んで、久し振りの彼等を見渡す。 松岡正剛氏は次のように記している。 10月30日、野尻さんが亡くなったとき、パリにいた。電話が入った。「僕の骨はオリオン座にばらまいてほしいっていう遺言だったそうですよ」と、私のスタッフが消え入るような声で付け加えた。ううっときた(松岡正剛「解説」(『新星座巡礼』所収、中央公論新社、2002年))。 世界の中には、死後の世界は夜空に輝く星座にある、と信じられている地方もあるという。そこでは死後の世界を生前に予約するのだとか。たぶんオリオン座は一番人気で、もう満員かもしれない。 気がつけば私も人生の折り返し点を過ぎて久しく、残された時間はあとわずかとなった。 さあどの星座を予約しておこうか。 やはり、行く先は、、、、、、 この冬もまたオリオン座が輝く季節がやってきた。 |
※ 星座写真や星野写真では、高感度で60秒程度の短時間露光を複数回連続して、後処理として加算平均コンボジット処理により作品化する手法が通常よくとられる。撮影後にダークフレームを取得しておいて、後作業としてダーク減算した画像を用いて加算平均で高感度ノイズの低減を図るという方法である。 しかし、星座写真や星野写真ではそれほどの高感度は必要ではない。ポータブル赤道儀の極軸さえ正確に合わせられれば、せいぜいISO400もあれば3分間程度の露光で撮影できる。これで長時間露光した方がノイズの少ない画像を得ることができる。 ダーク減算は後処理でもよいが、ここではカメラ内で長秒時ノイズリダクションをonにして、減算処理した。 50mm、f2.8、180秒露光、長秒時ノイズリダクションon、ケンコー PRO1D プロソフトン クリア (W) 使用、赤道儀により恒星追尾で撮影した1枚画像 2021年11月4日01時07分撮影 |
※ こちらの画像は上の画像の翌晩の撮影。 基本的な撮影法は同じだが、違いはソフトフォーカス効果がより強いフィルターをぼかしフィルターとして使用したこと。これによって、星座の特徴がより際立った。 上の画像と比べて、オリオンの振り上げた左手などがよくわかると思う。 最近では星景撮影などには プロソフトン クリア を使うことが多いが、このような星座撮影では従来の プロソフトン(A)が有効だ。 オリオン座の中の赤い部分はバーナードループ。 右下の青白く輝く1等星はリゲル、対角の左上で赤く輝いている1等星はベテルギウス。ベテルギウスの右上に淡い赤色を呈するのは、エンゼルフィッシュ星雲。 オリオンのベルトに相当する横三つ星の下には縦三つ星。縦三つ星の中央で赤い光を放つのが、オリオン大星雲M42。 50mm、f2.8、180秒露光、長秒時ノイズリダクションon、ケンコー PRO1D プロソフトン(A)(W) 使用、赤道儀により恒星追尾で撮影した1枚画像 2021年11月5日01時09分撮影 |